大判例

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高松高等裁判所 昭和45年(ネ)116号 判決

控訴人(被告)

中野好住

外一名

代理人

大野忠雄

被控訴人(原告)

住友孝次

代理人

岡田洋之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

但し当審に於ける訴の一部取下により、原判決添付目録中、阿南市中大野町北傍示七六番田九〇五平方メートル(九畝四歩)及び同所七七番の一田二六四一平方メートル(二反六畝一九歩)は除外される。

事実《省略》

理由

当裁判所の事実の認定並びに判断は次の点を附加訂正するほか原判決理由の記載と同一であるからこれを引用する。

原判決理由二の一〇行目から一一行目にかけての摘示判例を「最高裁判所昭和四四年(オ)第八九三号、同年一二月一八日第一小法廷判決、判例時報五八三号)」と訂正し、同一一行目の「対抗し得ない筋合であるが」から同項末行までを次の通り訂正する。

「対抗し得ないものである。元来抵当権者に対抗し得ない賃借権は抵当権者に損害を及ぼすものではないから、競売手続においてはかかる賃借権は存在しないものとして、進行せしめるべく、抵当権者に対抗し得る短期賃貸借にして抵当権者に損害を及ぼす場合にはじめて民法第三九五条但書により裁判所に対し、その解除を請求し得るものというべきで、この理は抵当権の目的物が農地の場合においても同様に解すべきことは多言を要しない。

しかし農地にあつては、同法の目的から所有権移転についてその取得資格を制限している結果、本件の如く抵当権者に対抗し得ない賃借権の存する農地も一応同法三条二項一号にいう小作地に該当するものと解すべく、かかる農地の所有権を取得する適格者も、小作人等同号所定の者に限られることになる。

成立に争いのない甲第三号証、原審証人谷口徳勝の証言によれば、本件農地の所轄農業委員会においても右法条所定の小作人等に該当する被控訴人中道公以外の者に競買適格証明書を交付しない取扱をしていることが認められる。従つて競買申出人は右適格証明を得べき小作人等に限定せられ、結果として対抗力なき賃借権の存在により、対抗力のある賃借権の存在する場合と同様後記のような損害を抵当権者に及ぼしていることが認められる。右の如き状態は対抗力ある短期賃借権につき解除を請求し得ることに比し甚だしく不合理な結果を来すことはいうまでもないから、かかる賃借権も亦民法第三九五条但書に準じ解除請求の対象となるものと解すべきである。」

当審における控訴人中道好住本人の供述によるも以上の認定判断を覆えすに足りない。

そうすると被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によつてこれを棄却することとし控訴費用の負担につき同法八九条九五条を適用して主文の通り判決する。(合田得太郎 谷本益繁 林義一)

〈参考〉 原判決(徳島地裁昭和三年(ワ)第三六五号、昭和四五年四月二八日判決)

主文

被告中道好住所有の別紙目録記載の土地につき昭和四一年二月一一日阿南市農業委員会の許可を得て被告両名間において締結した賃貸借契約はこれを解除する。

訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

事実

一原告訴訟代理人は主文第一項同旨及び訴訟費用は被告らの負担とするとの判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「(一)原告は昭和四〇年三月五日被告中道好住及び訴外佐野隆義を連帯債務者として右両名に対し金九〇万円を、弁済期日同年六月三日、利息月一分五厘、遅延損害金月三分の約定で貸付け、被告中道好住は右債務の担保として同人所有の別紙目録記載の各土地(以下本件各土地という。)に抵当権を設定し、同日その旨の登記を了した。

(三) しかし、被告中道好住らは右債務を弁済しないので、原告は昭和四二年八月徳島地方裁判所に本件各土地の競売を申立て、同月二三日同庁昭和四二年(ケ)第一一三号事件として競売手続開始決定があり、現に競売手続が進行中である。

(二) ところが、被告中道好住は右抵当権設定後の昭和四一年一月二〇日阿南市農業委員会に対し本件各土地を同被告の長男で当時同居していた被告中道公に賃貸することの許可申請をし、同年二月一一日右許可を得て賃貸した。

(四) そのため、農地法三条二項一号により小作地たる農地は小作人以外の者が所有権を取得できない建前上、第三者が本件各土地の競売申出をしたくても県知事の適格証明が得られず、現に昭和四三年二月頃訴外武田寛一がこれを競売すべく適格証明の申請をしたが、右の理由で却下された。

(五) 右のような次第で、第三者が適格証明を得られないため競売期日は昭和四三年二月二日、同年四月一七日、同年六月一九日と回を重ねたが、もちろん競売申出人がなく、その後も競売の可能性はない。そして、その最低競売価額は第一回目の合計金四八二万八、七〇〇円が同年一〇月八日の第四回目には合計金三五一万六、一二五円と低下した。(同年一一月二〇日の第五回目も同額であり、第一回目と第五回目の本件各土地ごとの最低競売価額及び先順位抵当権の債権額は別表のとおりである。)

(六) 本件各土地には別表のとおり原告の先順位抵当権が総額金一九〇万円、同順位抵当権が原告を含めて総額金二七〇万円設定されているので、競売価額の下落はそのまゝ原告の抵当権に対する損害としてはねかえり、もし小作人である被告中道公が将来競落することがあるとしても、その時には極めて低い価額となり、原告がその配当にあずかれないことも予想される。

(七) 被告両名間の前記賃貸借契約はその期間を昭和四一年一月から昭和四四年一二月までとするいわゆる短期賃貸借であつて、その期間はすでに終了しているのであるが、所轄農業委員会は右賃貸借がその後も期限の定めのない賃貸借として継続しているものとして取扱つており、このような短期賃貸借の存在は事実上抵当権の実行を不可能とし、原告の抵当権に致命的な損害を与えるものであるから、被告らに対し右賃借権の解除を請求する次第である。」

二被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。「請求原因(一)、(二)、(三)の各事実は認める。

同(四)、(五)のうち本件各土地につき原告主張の先順位及び同順位の抵当権が設定されている事実は認めるが、その余の事実は争う。

同(六)、(七)の事実は争う。」

三立証《省略》

理由

一、請求原因(一)、(二)、(三)の各事実は当事者間に争いがなく、また本件各土地につき別表のとおり総額金一九〇万円の先順位抵当権があり、その他原告を含めた総額金二七〇万円の同順位抵当権が存在することも当事者間に争いがない。そして〈証拠〉によると、被告中道公は右争いのない賃貸借契約に基づきその引渡を受けて現に小作している事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

二、そして、〈証拠〉によると、被告両名間の本件各土地に対する賃貸借(昭和四二年二月一一日農業委員会許可)はその期間を昭和四一年一月から昭和四四年一二月までの四年間とする契約であつて、いわゆる短期賃貸借契約であることを認めることができ、これが原告の抵当権設定後競売手続開始決定前の賃借権設定であることは前示争いのない事実に徴して明らかであるから、本来右賃貸借は右期間中に限り抵当権者たる原告に対抗することができ、右開始決定後の農地法一九条による法定更新(期間の定めのない賃貸借契約になる。――最高裁判所判例昭和三五年七月八日第二小法廷言渡)は対抗し得ない筋合であるが、証拠によると、所轄農業委員会は期間終了後も右賃貸借は期間の定めのないものとして継続し、農地法三条二項一号所定の小作人及びその世帯員ないし農業生産法人以外の第三者には競売適格証明を交付しない取扱であることを認めることができるところ、原告は本訴において右期間満了後の法定更新された賃貸借契約の対抗力を殊更争わず、民法三九五条但書に基いて解除の請求をする趣旨と解することができ、このような場合右法定更新された状態の賃貸借もなお同条所定の解除請求の対象となる賃貸借に該当するものと解するのが相当である。

三、よつて、原告の損害の点について検討するに〈証拠〉によると、本件各土地の競売は、前記農地法の買受適格者以外の第三者が希望しても適格証明の交付を受けることができず、また適格者たる小作人被告中道公らの競売申出がないため、数回に亘り新競売、延期を重ね、その各筆の最住競売価格は第一回期日から第五回期日まで別表のとおり逓減している事実を認めることができる。前示争いのない原告の先順位抵当権、同順位抵当権の債権額は原告の抵当権を含めると、その元本債権だけでも合計金四六〇万円を下らず、右第五回期日の最低競売価額の合計は金三五一万六、一二五円であつて、右債権元本合計額に足りないことが明らかである(特に、価格の大きい土地について先順位抵当権が設定され、後順位抵当権者たる原告の満足度が少ない。)から、結局被告両名の前記賃貸借が原告に損害を及ぼしているものと認めることができる。

四、そうすると、原告の請求は理由があるので、被告両名間の右賃貸借契約の解除を命ずることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、 九三条一項但書を適用して主文のとおり判決する。(深田源次)

別紙目録・別表《省略》

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